《MUMEI》

もともとは、不良たちの縄張りのマーキングかなんかの意味があるらしくて、


そのマーキングの種類としては、


《タグ》とか、《スローアップ》とか、《ピース》とか……、


いろいろと、呼び名があるらしい。





それらの総称が、《グラフィティ》。





ちなみに、

《グラフィティ》を描く人間のことを、《ライター》と、呼ぶそうだ。



最近じゃ、その大胆でカラフルな《グラフィティ》の構図が、若いひとたちにウケて、完全度の高い『アート』として市民権を獲ているとか、いないとか……。





………でも!!





わたしにとって、《グラフィティ》はただの落書き。


だって、全然キレイじゃないし、

むしろ汚らしく見えるし、

配色とか、構図のセンス悪いし、





………てかさぁ、


そのまえにさぁ……。






「ひとン家のシャッターに、勝手に落書きしてんじゃねーよッ!!」






わたしは突然、顔をあげ、「常識だろッ!!」と、目を見開いて叫んだ。

その勢いにシホと長島君はビビったようで、わたしとの間に少し距離を取る。


「そりゃ、そーだよな」


長島君が戸惑いながらも、わたしの台詞に頷いた。シホは肩を竦めて見せる。


「器物破損っていう、立派な違法行為だからね。はやく、捕まるといいけど」


シホの言葉に、わたしは深々と頷いた。





………そう。

はやく、そのバカげた《ライター》を、

警察が捕まえてくれたら、



どんなに、気がラクになることか−−−。








わたしが住む商店街のシャッターに、初めて、謎の《グラフィティ》が描かれたのは、


今から2年まえの、冬。


………わたしが、まだ中学3年生のときだった。




朝、起きてすぐ、お母さんに頼まれて、


お隣りの精肉店に、町内会の回覧板を渡すために、


嫌々ながら、外へ出た…………。


外は、予想通り、とても寒くて、


息が白くなって見えて、


鼻の頭や指先に、


じんわりと、鈍い痺れが広がった。




そして、不意に、




本当に何気なく、




自分の家の、閉ざされたシャッターを、見遣り、




凍り付いた。




.

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