《MUMEI》
ミサ
「へえ。違う?本当に?」
卑屈な笑みを浮かべて言うその声は、ひどく暗い。
「違う。絶対に」
「ふーん」
そう言いながら、由井は扉を全開させて固定した。
「違うんだってさ。どうするよ?」
「……信じるの?」
由井の後ろから静かな女の声が返ってきた。

 音もなく現れた女は背が高く、茶色い髪は無造作に肩まで垂らしている。
その整った顔の表情は暗く、目には力がない。

どこかで見たことがある。
しかし、どこで……?

「あそこにいた人だ」
ユキナの言葉でようやく、ユウゴも思い出した。

 彼女はあの日、由井たちのアジトにいたメンバーの一人だった。

「信じるの?」
彼女は繰り返した。
由井は「いや」と首を振り、ユウゴとユキナを睨んだ。
「こいつら以外に、裏切り者は考えられない。そうだろ?ミサ」
ミサと呼ばれた女はゆっくり、そしてはっきりと頷いた。
「こいつらのせいで、みんなが死んだ」
「そうだよな。その通りだ」
そう言って、由井とミサは揃って倉庫に足を踏み入れた。

「あの時、俺を殺さなかったのは間違いだったな。それとも、ほっとけば死ぬとでも思ったか?」
由井の声を聞きながら、ユウゴはいつでも銃を取り出せるように構えた。
「あいにくだったな。あの後、ミサに助けてもらったよ」
ミサは何も言わず、ただ、ユウゴとユキナを見つめている。

「生き残った奴らにも会ったんだ。非常用の集合場所ってのがあってね」
「……他にもいるのか?ここに」
ユウゴが聞くと、由井はフッと笑った。

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