《MUMEI》

長島君は驚いた顔をしていた。心外だと言わんばかりに、口を開く。


「親父の仕事と俺は関係ないだろー」


わたしは物凄い剣幕で彼を睨む。


「関係あるだろッ!!大アリだろッ!!つか、近寄んな!話しかけんな!!ヘドが出るッ!!」


そこまでまくし立てると、さすがに長島君も気を悪くしたようで眉をしかめた。


「ひっでー言い草、今の聞いた??」


すかさずシホに話を振る。シホは冷静な様子で頷き、「言いすぎ〜」とわたしをたしなめる。

怒りがおさまらないわたしは二人を睨みつけた。


「ひどいのはどっちよッ!!二人ともわたしのことバカにしてェ〜!!」


もう知らないっ!!とヘソを曲げたわたしは、机に突っ伏した。

シホはため息をつき、わたしの頭をまた、ヨシヨシした。


「いいじゃん、家のことなんかオトナに任せとけば。それよか、《グラフィティ》をどーにかしたいんでしょ??」


確かに。

長島君のお父さんも許せないが、《グラフィティ》はもっと許せない。

シホの台詞に長島君も同意した。


「俺も協力するよ。みんなで悪質《ライター》を捕まえよーぜ」


わたしはゆっくり顔をあげた。

二人はわたしに優しくほほ笑んでいる。

一瞬、マジで胸がいっぱいになる。





…………でも。





シホが思い付いたように長島君に言った。


「今日、棗ん家行かない??ヘンテコ《グラフィティ》の鑑賞に」





…………ん??

てか、『鑑賞』……??





彼女の提案に長島君も、乗り気だ。


「いいね、行こう。俺らの住んでるとこじゃ、なかなか見られないしな」


明らかにワクワクした口ぶりだった。

シホは「じゃ、決まり」と、簡単な調子で言ってから、冷たい視線を向けているわたしを見た。

彼女は肩を竦めて、「なに、その目つき??」と嫌そうな顔をする。


「偵察よ、偵察。《ライター》の証拠が見つかるかもしれないじゃない」





…………絶対、





絶対ゼッタイ、面白がってる〜〜!!











学校が終わると、すぐ、

わたしは家に帰った。


シホと長島君も一緒に、わたしの後ろを歩き、

半ば強引について来た。


「楽しみだな〜、ドラゴンもどき」


「今回は、どんな構図かしらね」


「もーすぐ夏休みだし、明るい色じゃない??赤とか、オレンジとか」


「そーね、冬は寒色系だったものね」


なにやら楽しそうに話をしているのが聞こえてくる。

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