《MUMEI》

「いいから早くしろ!手に付いたその汚ぇ血流して来い!!」
掴んだ手はそのまま、サキはコウを連れ洗面所へ
「所長!?一体どうしたんだよ、なぁ!?」
コウの問う声にも反応せず
蛇口から大量に流れ出てきた水へとコウの手を突っ込んだ
段々と薄れていく血液、和らいでいく腕の痛み
これは人形術を扱う際に起こるリスクで
漸く治まった痛みに疲れ、その場へと崩れおちた
呼吸ばかりがひどく乱れて
取り乱す事など滅多にないサキ故にコウは驚きを隠せずに
息苦しそうに壁に背を預けるサキに唯うろたえるばかりだ
「所長、俺医者連れてくるから待ってろ!!」
徐々に血の気が引いていく先の顔色に慌てて外へ
引き留めようと手を伸ばすが捕らえる事は出来ず
声を出す事すら億劫で、その背を見送るしか出来なかった
「あの……」
そのコウと入れ違うかの様に顔を覗かせてくる女性
どうやら客の様で
だが無様に有香へと座り込んでしまっているサキを見、心配気な顔だ
「あの……。ここ、調査事務所の(Doll's)ですよね。お願いがあって来たんですけど……」
サキの様子を気にしてか、戸惑いがちに用件を述べてくる
何とか壁伝いに立ちあがると、中へと客人を招き入れた
ソファを勧めてやり
インスタントだがコーヒーを出してやって
向かい合う様にサキもソファへと腰を降ろす
「だ、大丈夫ですか?何か、お顔の色が悪い様ですけど」
気を使ってくる女性へ、サキは大丈夫だと笑みを浮かべ
営業用の作り過ぎた笑みを向ける
「唯の寝不足ですので御心配には及びませんよ。それで、お願いというのは?」
「は、はい。実は……」
僅かに声を震わせながら、テーブルの上に置いた何か
余程物騒なものなのか、厳重に布に包まれていて
ソレが一体何なのかは、聞いてみない限り窺い知ることは出来なかった
開けても?と尋ね了承を得るとゆっくりと布を外す
現れたソレは
「……腕?いや、人形か」
ヒトの腕を模した人形だった
「昨日、何故か家の庭に転がっていたんです。不気味で仕方なくて……。しかも、これ動くんですよ!?」
語気も荒く訴えて
ソレを見せるため軽く突いてみれば、微かに指先が動いて
瞬間、飛んで跳ねた
信じられない光景に女性は悲鳴を上げ、サキは舌を打つ
取り敢えずは女性を外へと戸を開け放った
その事ばかりに気を取られ、疎かになってしまったサキ自身へとその手は迫り寄る
早い動きでサキの首元を掴み上げ
指一本一本に徐々に力が加えられていった
息苦しさに、声が詰まる
「一体、何なの!?」
驚きと恐怖が入り混じった声を上げる女性
サキは何とか手を首から引き剥がすと有香へと叩きつけ脚で踏みつけた
益々呼吸が乱れていく
(……その子、オジさんの事が好きみたい)
頭の中に直接入ってくるような声を突然に聞き
その姿を探す
「……また、テメェか」
自身の背後にその気配を感じ、首だけを僅かに振り向かせれば
目の前にその姿が現れた
睨め付けるサキへ、姿を見せた少女は態とらしく肩を竦ませる
(だって、私オジさんのこと好き。私だけのものにしてあげる)
その態度とは裏腹な堂々とした言い草
サキはあからさまに嫌悪感を顕にして見せた
「御免被るな。俺はショタでもロリコンでもねぇ」
(そんなの、関係ない。私ね、オジさんの傍に居たいから、[あの子]の身体貰う事にしたの)
あの子
その言葉でサキの顔色が明らかに変わる
踏みつけていた手を取って上げると、少女へと投げて寄越しながら
「……アイツに手ェ出してみろ。ぶっ殺すぞ」
低い声色で凄む
だが少女は怯む気配も見せず
(そんなの知ーらない)
子供らしいはしゃぐ声を返し
だが途中、その表情が大人びたソレへと不意に変わり
声すら変わったように感じられた
(私は、あなたの傍にいたい。身体、一から作ろうと思ったけど、あの子の身体貰った方が確実だから)
だから貰うの、とだけ言い残しその姿を消していた
ソレを睨め付け、消えた事を改めて確認すると
脚元に転がったままの手を拾い上げて
手首にある術印に気が付き、サキは舌を派手に打つ

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