《MUMEI》
お店の異変
わたしはレジの丸椅子にかばんを置いて、もう一度、苛立ったように大声を出す。


「ちょっとー!!だれもいないのー!?」


やっぱり返事はなかった。

すると、背後からシホが言った。


「やっぱ、休みじゃん」





…………ちっがーーーうッ!!





「休みじゃないって言ってるでしょッ!!」


「だって、だれも出て来ないし」


平然と答えるシホをジロッと睨んだ。


「ちょっと手が塞がってんのよ!!電話とかッ!!」


「そうかなぁ〜??」


言い訳をするわたしに、彼女は疑いの眼差しを向けてくる。

そこで、長島君が明るく口を挟む。


「寝てんじゃねーの??客もいないし」





………どんだけテキトーなんだよ、ウチの店!!






長島君はぐるりと店を見渡して、さらに言う。


「どーでもいいけど、シャッター閉めない??《グラフィティ》見れないじゃ〜ん」


シホも頷く。


「そうね。休みみたいだから、閉めておいてあげましょ」


好き勝手言い放題の二人に、なにか言い返してやろうとしたとき、

自宅の方から物音がした。





………やっぱ、いるじゃん!!





文句のひとつでも言ってやろうと振り返ると、



異変に気づいた。



それは、


だれかが言い争うような声と、


ヅカヅカと慌ただしく床の上を歩く音。





………なに??





わたしの表情が強張ったのに気づいたシホが、「どーした??」と呑気に尋ねてくる。

わたしは不安になり、彼女の顔を見る。


「なんか……ケンカしてるみたい……」


ぽつんと答えると、シホは眉をひそめて店の中に入って来る。それに長島君も続く。


「ケンカぁ??」


わたしたちは耳をひそめた。

微かだが、確かに、男のひとたちがなにかを言い合っている……。

しかも、かなりイカってるみたいだ。

ちょっと、怖くなった。





…………なに、ナニ??


なんなの、一体どーしたのッ!?


怖いひとでも来たのかな??


じいちゃんとお母さん、どうしたのかな??






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