《MUMEI》

ふと、足元へ視線を落とすと、

自宅に上がる店舗からの入口のところに、

男物のローファーがきちんと並べて置かれていた。





………じいちゃんはこんな靴履かないし。


だれの靴??





「なにかあったのかな??てか、大丈夫かな……??」


不安な声で呟くと、長島君が呑気な声で言った。


「これだけヒマなら、ケンカもしたくなるだろーよ」





…………どういうイミだッ!!





全力で長島君を睨むわたしに、シホが冷静に「テレビの音じゃないの??」と言った。

わたしは曖昧に頷きつつも、どうしても心配で中の様子を見に行こうとおもい、間口でローファーを脱ぎはじめた。



そのとき。



「さっさと帰ってくれ!!二度と来るなッ!?」



しゃがれた男の声が聞こえ、わたしは動きを止める。





…………この声、


じっ!!

じいちゃんッ!?





弾かれたように顔をあげると、自宅の奥からじいちゃんが、スーツを着た男のひとの腕を掴み、こちらへ引っ張ってくるのが見えた。





…………一体、なにごとッ!!





要領を掴めず、わたしは呆然と立ち尽くした。

じいちゃんは物凄い形相で、そのスーツ男をズルズルと引きずっている。

間口までやって来ると、じいちゃんはそのスーツ男を放り投げた。わたしは瞬時にその場から飛びのき、その結果、その男はなすすべなく、床の上に尻餅をつく。

じいちゃんは男を睨みつけながら、低い声で怒鳴り付ける。


「とっとと帰れッ!!バカな話は持って来るなと、お偉いサンに伝えとけッ!!」


男はオドオドして、靴を履きはじめた。それを見ている限りでは、怖いひとじゃないようだ。

なんとなく、ホッとする。

それからじいちゃんに向き直った。


「どーしたの、じいちゃん。なんの騒ぎ??」


間口で仁王立ちしているじいちゃんは、そこで初めてわたしに気づいたようで、驚いた表情を浮かべた。


「なんだ、棗。帰ってたのか」


ごくフツーに、「ただいまくらい言え」と返される。





…………いや、


言ったんだけどな。





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