《MUMEI》 なんと返事をしようか悩んでいると、少し離れたところからその現場を見ていた長島君が、「あれ??」と素っ頓狂な声をあげた。 わたしとシホ、それからじいちゃんは彼を見る。 長島君はスーツ男に近寄り、顔を覗き込んだ。 そして、言う。 「やっぱり、三田サンじゃん!!」 一瞬、みんなが黙り込む。 …………なに?? 長島君の知り合い?? 三田サンと呼ばれたスーツ男は、長島君を見つめて、ほうけた表情を浮かべていたが、思い出したように、急に驚いた。 「もしかして、社長の……ッ!?」 …………シャチョー?? つーことは、長島君のお父さんの部下かなにか?? 長島君はうれしそうに、「覚えてた??」と笑う。 「何回かウチに来たよね〜??」 そうつづけると、三田サンは慌てて立ち上がり、「その節はどうも!!」とかしこまった。 ずっと静観していたシホが長島君に向かって尋ねる。 「だれ??知り合い??」 みんながおもっていたことを代弁してくれた。 長島君は顔をあげて頷く。 「親父のスーパーの、食品担当の次長サン」 簡単に紹介すると、三田サンはそれに乗っかるように、わたしたちに「どうも…」と深々と頭を下げた。わたしとシホもつられて会釈する。 そんな中、 じいちゃんだけが、ひどく不機嫌そうに顔をしかめていた。 ジロリと長島君を睨みやり、しゃがれた独特な声で言う。 「……アンタもあのスーパーの回し者か??」 …………いやいや。 回し者っつーか、彼、高校生ですよ。 よく見てよ、制服着てるじゃん。 心の中でひそかにつっこむ。 長島君はじいちゃんの方を見た。 「俺の親父が、そのひとの上司で〜。それだけなんですけど〜」 呑気な口調でややこしく答える。すると、じいちゃんは眉をつりあげて、叫ぶように言った。 「みんな帰れッ!!今すぐ出てけッ!!」 いきり立ちながら、裸足のまま間口を降り、その勢いで長島君と三田サンを有無を言わせず、店の外へ追い出そうとする。 それに巻き込まれ、実の孫であるわたしと、無関係のシホまで一緒に外へ出された。 全員まとめて追い出すと、じいちゃんはフン!!と鼻息が荒いまま間口に戻り、そこに落ちていた三田サンのローファーをこちらへ放ると、そのまま奥へ消えて行ってしまった。 . 前へ |次へ |
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