《MUMEI》
影と竜の邂逅
赤黒く濡れそぼった愛剣を振るい、血を弾いて鞘に納める。そして眼前に横たわるモノを見下す。
かつての美しい純白は見る影も無く、赤く汚されていた。やったのは当然自分。だがそのことに何の感慨も沸きはしない。ただ必要だからやった、それ以上でも以下でもない。
『白竜を討伐し、死体を持ち帰れ』
主から下された命だ。但し頭部は傷つけるな、とのことなので命令通り頭部だけは美しいまま。体はボロボロ頭部は無傷という異様な姿の赤い白竜の額に手を置く。鱗は滑らかで、まるでシルクに触れているようだ。だがそれは使命に無関係。使命に関係の無いことに関心は無い。自分にとっては使命が、いや主が全てだ。主に関係が無い全てに興味は無い。
「隔てられし彼の地と此の地を結い合わせよ
『結路』」
魔法の発動。俗に言う転移魔法というものだ。それで白竜と共に主の元へ帰還する。
……筈だった。
突如飛来する石つぶて。何だかは判らないが避けるまでもない、そう高をくくっていたのが間違いだった。石が命中すると同時に体が吹き飛ばされ、その直後に魔法が完成し、白竜のみが光に飲まれて消え失せた。
「……何者だ」
自分が気配に気付けない程だ、相手はかなりの手練れだろう。それにさっきの石つぶて。威力は勿論、相手の油断を誘う為にわざわざ石ころを選んだ判断力も侮れない。最大級の警戒をしつつ、石が飛んできた方向を睨む。
「それは俺の台詞だ、汚らわしいニンゲンが」
木の陰から出て来た青年は、そう吐き捨てた。

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