《MUMEI》

その青年の姿は独特だった。あれは確か東方の島国の服で、ハオリとかキモノとか言った筈。総合してワフク、だったか。だと言うのに大陸の服、マフラーを首に巻き木綿のパンツを穿いていた。しかし不思議と似合う。白い髪も黒い瞳も、一見全体的にちぐはぐな筈なのによく似合っていた。そんな不思議な青年は怒りを露わにしてこちらを睨んでいた。
「ここで何をしていた」
「質問しているのは俺だったと思うが」
鼻で笑って挑発する。乗ってくれれば有り難いが果たしてどうか。
青年は一瞬獰猛な光をその瞳に宿したが、それを抑えてしまった。なかなかの自制心だ。この青年は相当厄介な相手だと認識する。
「竜使い、ラング・ファフニール」
彼の言葉は二点ほど驚くべき点があった。まず一つ、竜使い。竜を友とし、共に生き共に戦う者たち。竜という種族の性質を鑑みると、人と友になることなどほぼ有り得ない。よって非常に稀少な存在なのだ。そして二つ、ファフニール。それは史上最高の竜使いの名だ。数十年前に姿を消し、以来その存在は誰にも確認されなかった。だというのにこの青年はファフニールと名乗る。俺は疑問をぶつけた。
「ファフニールがそんなに若い訳がないだろう。どういうことだ」
「……俺は養子だ」
やや沈黙してからの回答だった。本題から逸れているのが気に食わないのだろう。しかし新たな疑問が浮かぶ。
「人嫌いで有名だったファフニールが養子だと? そんなことが……」
「煩い、そろそろ俺の質問に答えろ」
これ以上付き合う理由は無いとばかりにラングは俺の言葉を遮った。主に役立つやも知れないと思ったが、もう彼から話は聞けなそうだ。諦めて彼に応じる。
「訊く意味があるのか?」
だが主導権を渡すつもりは無い。あくまでも俺主体で進ませてもらう。
「確認だ、答えろ」
遂にラングの声音に脅すような色が混じった。それに怖じ気付いた訳ではないが、このままでは話が進まない。頑固なことだ、と心の内で溜め息を吐く。
「白竜を討伐し、その死体を持ち帰ろうとしていた」
ラングはそうか、と言うと俯いて黙ってしまった。よく見ると体が小刻みに震えている。それから伝わってくる感情は、憤怒。沸き上がる憤怒が彼の体にのみ地震を起こす。やがて震えが止まると、徐に竜を思わせる装飾の剣を引き抜いた。そして、吼える。
「我が友の命を奪い、あまつさえその死体を辱めた罪は重いぞ、ニンゲンッ!!」

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