《MUMEI》

そのまま彼はつづける。


「えっとォ、ここの豆腐屋のご主人だけが、頑なにわたしどもの提案を拒んでいて……もう、どうしたものやら……」


三田サンはまた、ため息をついた。

わたしはそんな彼を半眼で睨む。


「そんなの、当たり前じゃないですか」





…………勝手にこの商店街のそばに大型スーパーをつくって、


たくさんのお客さんを横取りし、


商店街を苦しめた上、


今度は、


テナント??





バカにするにもほどがある。





おもうに、長島君のお父さんは、


この商店街が可哀相だとか、そういう感傷的なものじゃなく、


だだ、単に、


昔からここで営業している、


たくさんのお店から、


この商店街を愛してくれている、


古くからのお客さんを奪いたいだけ……。





間違いなく、


長島君のお父さんは、


この商店街を、





−−−潰しにかかっているんだ…………。





………てか、


そんなの、


ゼッタイ、許さないんだからッ!!





三田サンの話を、黙って聞いていた長島君は呆れたようにため息をつく。


「親父も物好きだね〜。いろんなことに手を出したがる」


すかさずシホが、「どんなことよ?」と尋ねると、長島君は肩を竦めた。


「戦隊ヒーローとか、そこそこ売れてる演歌歌手とか店に呼んでイベントしたり」


話しながら、なにか思い出したようで、長島君は笑う。


「最近なんて、イベントスペースで、現役美大生アーティストの個展をやるんだ〜って意気込んでてさぁ。そんなんで客来るのかよ〜って、さすがに笑ったよ」


シホは眉をひそめた。


「現役美大生??」


長島君は頷く。


「この先に美大あるだろ??そこの学生。なんだっけ……《クラサワ マドカ》っていうひと」


シホは数回瞬き、そして「知らな〜い」とばっさり切り捨てた。長島君は、「だよな〜!!」とシホに頷き返しながら笑い出す。


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