《MUMEI》

ラングの発した裂帛の気合いは、俺に無意識で抜剣させた。気圧された上での行動ではない。己と伍する程の強者であると感じ取ったが故の行動だ。現にラングの踏み込みは鋭く、打ち込みは激烈だった。ただ惜しむらくは剣筋の正確さ。それ故に、彼の剣は俺に届かない。上段からの打ち下ろしを捌き、体勢が崩れたところに膝蹴りを放つ。
「かはッ……!?」
鳩尾への一撃は、ラングの動きを大幅に制限した。しかし彼はそれを気合いで克服し、一旦俺から距離をとる。相変わらず瞳は燃え盛ったままだ。そんな彼に、欠片も油断せずに語り掛ける。
「お前の剣は正確過ぎる。余程鍛錬を積んだようだが、型通りの剣では俺は斬れん。」
言い終わると同時に俺は駆け出した。今までは防御、カウンターに徹していたが、それはラングの剣を見極める為。本来の俺は超攻撃型だ。攻めて、攻めて、攻めて、攻めて、攻め切る。守りが苦手なのではない、むしろ大得意だ。『攻撃は最大の防御』とも言うことだしな。
全身を捻り、そこから練り上げられた力を全て剣に集める。黒剣に切り裂かれた空気が唸りを上げる。渾身の斬撃。ラングをガードごと空中に弾き飛ばす。やはりラングは強い。この一撃を食らっても剣を握っているどころか、さして体勢が崩れていない。戦いが長引くことを覚悟しつつ、未だ宙を舞うラングに肉迫する。そして刺突を放つも彼は身を捩ってそれを避けた。別段驚きはしない。吹き飛ばされているとは言え彼の体勢は崩れていない。容易いとは言わないが可能なことだ。そう、驚きはしない。避けただけだったならば。

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