《MUMEI》

──夜、9時30。





「では──そろそろお暇しますね」

「──もう帰っちゃうの?」

「またレッスンの時にお会いしましょう」

「また連弾してくれる?」

「勿論です」





神山さんは、最後まで王子スマイルを振りまいていた。




‥僕の前以外では。





「──篠河君」

「はいっ‥?」





何故最後の最後に僕に話しかけてくるんですか‥?





「まさか君に先を越されるとは思いませんでした──」

「‥ぇ、ですからあれはっ‥」

「それにしても──その衣装本当に似合ってますね」

「‥‥‥ドウモ‥」





花禀様に仰られると嬉しいのに──神山さんに言われるとイラッとくる‥。

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