《MUMEI》 日焼けサロン小麦色に焼けた肌。髪の短い美少女は、日焼けサロンのロッカールームで服を脱いでいた。 更衣室には自分一人。平日の午前中。彼女は全裸になると、そのままバスタオルを持たずに、大胆にもシャワールームに入った。 だれも来そうもないし、全身にオイルを塗るだけだから、さっさと済ませてしまおうと思った。 万が一ほかの客が来ても同じ女性。恥ずかしがることはない。 彼女が全身にオイルを塗っていると、ガヤガヤと大勢入ってきた。 「女抱きてえ」 「バカ声デケーよ」 「ハハハ」 美少女は慌てた。 「男?」 彼女は足がすくんだ。 「何で?」 目を見開き、口も半開き。胸のドキドキが止まらない。 「だれか入ってる」 「まだ?」 荒々しいノック。彼女はドアを押さえながら言った。 「あの、こっち女子更衣室ですよ」 「やべ」 まだ服を着ていた一人が慌てて外に飛び出したが、ほかの男は皆裸になってしまったので、部屋から出るに出れない。 しかし、勝ち誇ったような笑顔で戻って来ると、男はシャワールームの前へ行った。 「彼女、こっちが男子更衣室だよ」 「嘘?」 美少女はおなかに手を当てた。女の子が絶対にやってはいけないミスをしてしまった。 「どうしよう?」 「早く出て」 「ちょっと待ってください!」 彼女は両腕で胸を隠しながら立ち尽くした。 「早く」 声からして6人くらいはいる。皆まだ若い。しかも裸だ。怖過ぎる。 「あの、タオルを貸していただけませんか?」 「え?」 一瞬にして危険な空気に変わった。シャワールームの中の女の子は、全裸でタオルを持っていない。 「いいから出てきな」 なぜそういう意地悪を言うのだろうか。裸なのに出れるわけがない。 彼女はムッとしたが、自分が悪いのだと思い直し、低姿勢でお願いした。 「すいません。どなたか、タオルを貸していただけませんか?」 さすがに警察沙汰は避けたい男たちは、からかうのをやめて、一人が自分のバスタオルを丸めた。 「ドア開けな、渡すから」 緊張の一瞬。しかし信じるしかない。彼女はドアを少し開けた。すぐにタオルを渡してくれた。 美少女は急いで体に巻くと、俯きながら出てきた。 「かわいい!」 「かわゆい!」 彼女は自分のロッカーを開けると、両手で服とバッグを抱えた。 「すいません、女子更衣室で服着たら、バスタオル返しに来ますから」 しかし男は、彼女のバスタオルを掴んだ。 「とっかえっこでいいじゃん」 「あ、すいません」 彼女はお礼もそこそこに、一目散に女子更衣室に駆け込んだ。 「恥ずかしい。もうやだ」 まだ胸のドキドキが止まらない。 「……」 高平哲次は、無言のまま夢中で読んでいた。夏希も隣で緊張しながら待った。 「ヤらしいねえ?」 「はあ…」 高平は感動していた。 「いいよ、面白いよ。何、これ君の実体験?」 「まさか。あたしはこんなドジは踏みません」 「じゃあ、なぜこういう小説書いたの?」 「友達が間違えたことあります。バスタオル一枚でいたら男子が入って来てびっくりしたって」 「で、こんな怖い目に遭ったの?」 「いえ」 「わかった。君にそういう願望があるんだ。絶体絶命のピンチに身を置きたいという…」 「そんな願望はありません」 「じゃあ、なぜ書いたの?」 しつこい。 「あの、男性は、女性が困っていたら、優しく助けてほしいという…」 「それがテーマ?」 「テーマなんて大げさなものじゃないですけど」 「じゃあやっぱり、スリリングな冒険を味わおうというメッセージ?」 「全然違います」 「ハハハ。君は面白いね」 「面白くないです」 高平は急にまじめに話した。 「君は今、芸能界の入口にいるわけだけど、この世界で生きていくモットーは、1に礼儀2に礼儀。34が礼儀で5に礼儀だから」 「はい!」 「頑張って」 「ありがとうございます!」 夏希の目は、燃えていた。 前へ |次へ |
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