《MUMEI》
不思議な光景
.




−−−最初、見たときから、


うさん臭いヤツだな、とおもったのだ。





わたしは制服から私服に着替えるとすぐ、自転車に乗り、商店街の外れにある美術雑貨店に向かった。

その店は、近くに美大があることから、たくさんの学生が画材道具を探しに訪れるため需要が高く、この商店街の中では一人勝ちの状態が続いていた。


それに輪をかけて、


《グラフィティ》騒動が勃発した今となっては、商店街に住むみんながペンキを買い求めるため、さらに売上を伸ばしているのだ、とだれかが噂していた。





………まったく、うらやましい限りだ。





颯爽と自転車を走らせていると、途中でだれかに呼び止められる。

自転車を止め、キョロキョロと周りを見回すと、仲良しのトメばあちゃんがわたしに向かって、手を振っていた。

トメばあちゃんは、この商店街の仲間のひとりで、和菓子屋を営んでいる。

まだわたしが小さい頃から、トメばあちゃんは、離れて住む孫によく似ている、と言って、とくに可愛がってくれているのだ。


「棗ちゃん、お出かけかい??」


トメばあちゃんはニコニコ笑いながら尋ねてくる。わたしは素直に頷き、気持ち大きな声で答えた。


「ペンキ買いに行くの!!ウチ、またシャッターやられちゃってさ!!」


わたしの返事にトメばあちゃんは少し顔を曇らせ、「またなの??」と呟いた。


「先週、扇子屋さんがやられたばかりなのに……最近、頻繁ねぇ」


わたしが大きく頷くと、トメばあちゃんは「気をつけていってらっしゃい」と朗らかに言った。それを聞いて、わたしは自転車のペダルを踏む。


「バイバ〜イ!!」


手を振りながら自転車を漕ぐと、トメばあちゃんは、「片手運転は危ないよ〜!!」と注意した。





トメばあちゃんと別れて、じきに美術雑貨店に着いたわたしは、店の脇に自転車を停めながら、


……あれ??とおもった。


美術雑貨店のすぐ近くにある、電柱の脇に、

知っている顔を見たからだ。





………あれは。





わたしはじっと目を凝らす。

電柱の側でオロオロしている、その人物は、



クラスメートの高木君。



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