《MUMEI》
藤堂忍視点
問い詰めても、やはり弘也は『別に』としか言わなかった。


「珍しいな、お前が俺のプライベートに関心持つなんて。

…何かあるのか?」


(これ以上は、無駄だな)


「…いえ。失礼しました」

「あ、あのさ。今月の京都への出張、どうにかなんない?」


立ち去ろうとした俺の肩を、弘也が馴れ馴れしく掴んだ。


「…京都、お好きでしょう? 休日わざわざ行かれる位ですし」


俺は、祐也の高校の文化祭の日に、わざわざ出張を入れてやった。


「もう飽きた」

「兄さん!」

「旦那様」


現れたのは、弘也の弟の現当主だった。


「何だよ、当主様」


弘也は弟を妬み、当主になってから名前で呼ばなくなった。


「忍を困らせるのはやめて下さい」


現当主は、俺に絶対の信頼を寄せていた。


(まぁ、俺がそうしたんだがな)


「わかったよ」


弘也は渋々従った。


(これで、大丈夫)


もし、駄目でも俺はその二日間は祐也の側で


祐也を、守れる。


そう思った俺は





甘かった。


弘也の七月の予定全てを把握していなかった。

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