《MUMEI》
聴こえない
雨の音がする。
昨年の冬から借りているこの部屋は、無音になることが多い。
たまに聴こえる雨の音や車の音、通りがかる人の話し声が自然と耳に入ってくる。
その音を感じることが好きだ。
自分が独りではない気がする。
いつからこんなに静けさに弱くなったのか。そんなことは考えるまでもない。
昨年の少し前頃には、部屋に人の気配があった。
二人で暮らしていたから当然なのだ。
あの心地よい時間を手放したのは私。
いまさら後悔してももう遅いのだろうか。
彼の中の私はもう消えてしまったのか。
彼の声はもう聴こえない。
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