《MUMEI》

わたしは語気を強めて言った。


「関係あるっつーのッ!!これだけ大騒ぎになってるんだから!!」


《彼》はますます眉をひそめて、「大騒ぎ??」と呟いたが、わたしは無視する。

逃げられないように、すかさず《彼》の手首を掴み、そのままお店の外へ連れ出そうとした。


「なんなんだよ、オイッ!?」


抵抗する《彼》に、わたしは振り返り、怒鳴った。


「おとなしくしてよっ!!ケーサツに行くんだから!!」


「…ケーサツゥ〜!?」


《彼》はわたしの手を振り払い、「なんでだよ!?」と叫んだ。

わたしたちが争っていることに気づいた他のお客さんたちが、ジロジロこちらを見てくる。

けれど、それどころじゃない。

わたしは《彼》にくってかかった。


「観念しなさいよッ!!オトコなら潔く腹くくれッ!!」


あまりの大声に、《彼》は顔をしかめる。


「なんの話だよ!?」


さっぱり分からない、といった顔をした。
わたしはいよいよ怒り出し、《彼》の顔に、ずいっと自分の顔を近づけた。


「しらばっくれないでよ!!往生際が悪いわねッ!?」


「だから、なんのこと言って……」


《彼》が言い返そうとしたとき、


背後から、弱々しい男のひとの声がした。


「どうしたの…??」


わたしと《彼》は同時にそちらを見る。




そこに立っていたのは、




メガネをかけた背の低い冴えない青年。





…………だれ??





わたしは見たことがなかったが、《彼》は知り合いのようだった。

《彼》は突かれきった声で、「竹内ぃッ!!」と青年を呼ぶ。


「なんか、この子がごちゃごちゃ言ってくるんだけどー!」


青年は困ったように顔を歪めて、わたしと《彼》の顔を見比べた。

手にしている数冊の大きなスケッチブックを抱え直し、それからわたしの方を見て、尋ねる。


「……このひとが、なにかしましたか??」


それを聞いて、今度は青年につめよる。


「外野は黙っててよ!!今からこのひと、ケーサツに連れていくんだから!!」


わたしの台詞に、『竹内』と呼ばれた青年は眉をひそめる。


「警察って……」


竹内さんは戸惑ったように、「どうして??」と尋ねてきた。

わたしは完全に頭に血が上っていて冷静になれず、噛み付くような勢いで叫んだ。





「コイツが《ライター》だからに決まってるでしょッ!!」





わたしの叫び声が店内に響き渡ると、





シン…と辺りが静まり返った。





重苦しい沈黙が覆う中、





ぽつりと、《彼》が呟いた。





「………《ライター》??」





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