《MUMEI》 わたしは勢いよく振り返り、《彼》を睨みつける。 「アンタなんでしょ!?ウチの商店街のシャッターを荒らしてるのは!!」 わたしの言葉に《彼》は、「はぁ??」と顔をしかめて言った。 「なんのことだよ??」 まだシラを切る《彼》にうんざりして、わたしがさらに追い詰めようとしたとき。 「どうしましたッ!?」 騒ぎに気づいたタカヒロさんが、わたしたちのもとへ駆け寄って来た。 《彼》は、タカヒロさんの顔を見ると、なぜかホッとした表情を浮かべた。 「なにかトラブルですか??」 タカヒロさんは心配した声で言いながら、わたしの顔を見るなり、「あれ??」と声をあげる。 「君は確か、秋元さん家の……」 どうやら、わたしのことを知っていたようだ。 まあ、小さな商店街だから、顔くらいは覚えているのだろう。 しかし、わたしがなにか答えるまえに、《彼》がタカヒロさんに向かって、「どーにかしてくださいよ〜」と馴れ馴れしく言った。 「この子がイチャモンつけてくるんですよ。警察行くとか、《ライター》がどうのって〜」 タカヒロさんはそれを聞いただけで事情を察したようだった。 わたしの顔を見て、静かな声で話す。 「……違うよ、彼は《ライター》じゃない」 諭すような言い方だった。けれど、わたしは首を激しく横に振る。 「だってこのひと、さっきからスプレーばっかり見てて!!」 わたしの言葉に、《彼》が「……見てちゃ悪いのかよ」とボソリと呟いたのが聞こえた。わたしは無言で《彼》を睨みつける。 いまだ一触即発状態のわたしたちに、タカヒロさんはため息をつき、 …………それから信じられない台詞を口にした。 「このひとは、常連さんなんだ。ほら、すぐ近くの美大があるでしょう??そこの生徒さんで……」 −−−その瞬間、わたしの思考が停止する。 美大?? …………の、 「生徒ォッ!?」 わたしはあらん限りに叫んだ。 . 前へ |次へ |
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