《MUMEI》

「新曲、できた。」


帰り道。
電車の中。
優也の突然のつぶやきに、俺は目を見開いた。

「マジで?!昨日、一曲つくってたじゃん。それとは、別?」
「うん。今度は、めちゃくちゃロック。」

淡々と言って、優也は一つあくびをする。

「どんなペースだよ。1日一曲って。
いつ、思いついた?」
「さっき。改札通ったとき、サビができた。」

俺は、開いた口がふさがらない。
こういうとき、優也は天才だと気付かされる。

「な・・・。歌ってみろよ。」
「ん?・・・ん。」

優也は、さりげなく唇を開く。こぼれおちたメロディーは、小さな音だけれど激しくて、鋭い。
すごく・・・

「かっこいい・・・。」
「まじ?」

優也が、ほんわりと笑った。
俺も、うなずきながら笑い返す。

「うわぁ・・・。これに、歌詞がつくのかぁ。
めっちゃ楽しみ。」
「んで、和正が歌うんだろ?最高。」

優也の優しい手が、俺の頭を撫でた。

「うわ、プレッシャー!!」
また、少し笑ってみせる。その笑顔が、ちゃんと笑えていたのかだけ、心配だった。





だって本当は、そんなふうに触れられて、泣いてしまいそうだったから。

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