《MUMEI》
一章:一
皓々と月の光が地上を照らす。
太陽が姿を消し、追い掛けるようにして現れた月は、着々と存在を主張し続けていた。
月が照らす下界では、着物を着た人間共が声を張り上げて走り回っている。
タッタッ、タタッタタッ、と下駄が鳴らす足音がそこら中から聞こえてくる。
「おぉーい、居たかあ?」
「いや、おらんよ!」
「何処さ行きよっただか、彼奴は」
「全くじゃ。こんな暗くなってきよったに、無事だと良いがね」
擦れ違い様に会話を交し合い、提灯を片手にまた走り出していくのであった。
時は徳川幕府の管轄下に置かれた江戸時代。
世間では神隠しとされる子供失踪事件が頻繁に起きていた。
一度消えた子は二度と戻らず、神に食べれてしまったのだと人々は騒ぎ立てていたのだが、ある一人の子供が消えてから、神隠しは嘘のように起こらなくなったそうだ。
その子供、史歩(シフ)を捜す為に何人もの村人が村中を駆け回った。
山中や隣町など、範囲を広げ捜索をしたが、結局見付からずじまいであったという。
それから拾年という歳月が過ぎる間に、彼の住んでいた村は廃れてこの世から姿を消した。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫