《MUMEI》
一章:三
目を凝らしてみると、叢から人の手が覘いていた。
「おい、大丈夫か?」
茅は叢へ駆け付け屈み込むと倒れている人物を提灯の光で照らす。
其処にいたのは、拾になるかならないかの児童であった。
顔や手足に擦り傷や打撲があり、所々出血している様子がみられる。
「おい」
何度か声を掛けるも返答はなく、茅は暫し模索した後、彼を肩に担ぎ挙げた。
そうして提灯を持ち直し庵に向かうのだった。


 寝床に児童を横たわせ、囲炉裏に火を点す。
棚にしまってある薬草を取り出して薬を調合し、児童の傷に塗り付けていった。
傷口に薬が染みたのか、ピクリと体を震わせ、児童がゆっくりと眼を開けると同時に怯えたように身を起こし辺りを窺い始めた。
「こ、此処さ何処だ? おめぇ、誰じゃ?」
「気付いた、か。此処は私の家だよ。君こそ、何であんな所にいたんだい?」
薬の付着した指を布切れで拭いながら茅は出来るだけ優しく答えた。
彼は深呼吸を繰り返してから縋るような目を茅に向ける。
「おら、おらは。村にけぇりたくて! 逃げてきただよ、お月様から」
「お月様? あの空に浮かんでる?」
半信半疑で聞き返す茅に、彼は真顔で頷いた。

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