《MUMEI》
一章:四
茅は児童を凝視する。
何度か瞼を上下させ目を瞬かせた。
「くっ……あっはは! 月から来たのかい? そんな無理な話、ある訳がないだろう。ほら、家まで送ってあげるから本当のことを」
「嘘じゃないっ! おいちゃん、信じてけろ。お願いじゃけぇ」
薬を片付けつつ児童の話を笑い飛ばす茅を途中で遮り必死の形相で児童は食って掛る。
茅はヤレヤレ、といった風情で髪を掻き回し、児童の隣に腰を下ろした。
「信じる信じないは、君の話を全部聞いてから決める。名前は?」
「……史歩。おいちゃんは?」
「私は茅だ。……笑って悪かったな」
茅が謝罪を述べれば、いんや、と言って少年は首を振る。
「話すったって、おら、上手く話せる自信さねぇだけんな、頑張ってみる」
そして、少年はポツリポツリと語り出す。
彼が過ごしてきた拾年の歳月を。
信じ難い話を茅は聞かされることとなった。
それは、史歩が伍歳になって壱ヶ月余り過ぎた頃だった。
暗くなり始めて、遊んでいた村の仲間達と別れ家に帰る途中のこと。
史歩は声を聞いた。
その声はとても綺麗で可憐な澄んだ声色で、史歩は誘われるようにして声の発生源まで近付いていく。
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