《MUMEI》
一つ星が見える夜
駅に着いてから改札を潜る。
潜らなきゃ、見つからない気がした。


「安西……」

幽霊みたいに、白線の真上に安西が立っている。


「来ちゃいましたか。」

やんわり、笑いかける安西の瞳は遠くの電灯を映している。


「さよならって……言うから、安西がもう居なくなってしまう気がして。」


「先輩がそう言えば来てくれるって思ったんです……はい。捕獲。」

俺の両手首を掴まれる。


「憎い?」

哀しみとも、恐怖ともつかない、感情から口が発した。


「さあ?
先輩と死ねたら幸せかなって思いますけど。」

危うい、白線の上に安西は居る。


「安西は……、有志は死にたい?
俺は嫌だ。まだ生きてたいよ、有志が俺に少しでも負い目があるなら生きていて欲しい。」


「先輩が俺の死を悼んでくれたらって思ってたんです。だから電話した……でも死ねなくて、先輩が来てほっとした。先輩が俺と死んでくれたら幾分かは怖くないのかも。」

引き込まれそうな、安西の瞳。
ふわ、と体の軽くなる感覚に変な浮遊感。

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