《MUMEI》
延長拒否
「それは出来ない」


静寂の中、響いたのは大志さんの声だった。


「どうしてですか!祐也が卒業するからですか!」


(…馬鹿)


興奮した厳は、大志さんがある意味果穂さん以上に恐ろしい事を忘れていた。


「よく聞くんだ」


小さな子供を叱りつけるような優しくも厳しい口調に、厳は静かになった。


「後悔するのは、君の気持ちだよね?」

「…そうです」

「君の気持ちを納得させるのと、彼女達の未来が変わるのと、どっちが大切だろうね」

「どういう意味ですか?」


俺も意味がわからず、厳と同じ気持ちだった。


「あの二人の元々の進路は、松本美鈴は県外進学、石川くるみは海外留学希望なんだ。

高二の三月に、花嫁候補に選ばれなければ、二人は昔から希望した道に行ける。

…ギリギリだけどね。

君が延長すれば、フラレた上に、希望していた進路にも行けなくなる。

近くで、君と選ばれた花嫁候補の幸せな姿見なければならないその子の気持ち、わからない?

それに、そんな子の側で選ばれた子が君と幸せになれる?

残った二人は仲良しなんだろう?

…わかったね」


何も言わなくなった厳は、ただ、頷いた。

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