《MUMEI》
果穂さんの謝罪
「ごめんね、厳」


その一言に、静かになった会場がどよめいた。


言われた厳は、口を開けた間抜けな表情のまま、固まっていた。


「厳が望むなら、延長させてあげたかった。

たとえ望む進路じゃなくても、残った二人は厳を恨まないし、二人は仲良しだからこそ、選ばれ人間を祝福すると、私は思う」


(…いつもと逆じゃないか?)


こういう温かい言葉をかけるのは、本来果穂さんではなく大志さんのはずだった。


「ど、どうしたのばあちゃん。じいちゃんみたいだよ」

「…何ですって?」

「何でもございません!」


厳は椅子から降りて土下座した。


(そうだよな、これが果穂さんだよな)


そして俺は聞いてしまった。


たまたまトイレから出た時、柱の側に果穂さんと大志さんがいたから。


「やっぱり大志みたいには無理ね」

「ちなみに冷たい俺はどうだった? かなり自分では違和感あったんだけど」

「全然完璧。さ、寝ましょう」

「そうだね」

『おやすみ田中君』


(ゲッ!)


大志さんは俺に気付いていた。


(役割交換してたんだ。…でもやっぱり大志さんは底が知れない)


去っていく二人を見ながらそう思った。

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