《MUMEI》
一章:五
山の方へと入っていき、辺りは草花で覆われ段々と視界を奪われていった。
そんな中で、史歩は一人の子供を見付ける。
拾歳より弐つ程上であろうか。
金髪の毛髪はクセがあり、毛先が曲がっていた。
短い髪が風に吹かれて揺れ動き、暗い空間を照らしているようにすら映る。
中性的で男とも女とも見分けは付かず、服装は史歩の見たこともない服であった。
黒いシャツにサスペンダーの付いた黒の短パンを着ていた子供は、史歩の目にはとてつもなく奇怪に見えたであろう。
史歩は生い茂る草の間から見える人物に息を呑んだ。
 帰らなきゃ、と頭の片隅で鳴る警鐘は何の役にも立たなかった。
「出ておいでよ」
歌声がスッと止み、史歩に声が掛けられる。
ビクン、と史歩の肩が跳ね上がった。
「ハハッ、君は怖がり?」
楽しむように笑われ、史歩はムッと顔を歪める。
「こ、恐くなんてねぇだっ! おめぇさ、何処の子だ? 見ねぇ顔だけぇ」
勢い良く身を隠していた草花から飛び出し改めて相手を見遣った。
「我か? 月 明暗」
「へ? ゆ、ゆへ……みいあ?」
聞き慣れぬ発音に首を傾げる史歩に近付きながら相手は首を左右させる。
「違うよ。ユエ ミンアンだ」

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