《MUMEI》
一章:六
 先程よりもゆっくりと発音し、明暗は史歩の隣に立った。
そして、史歩を見下ろす。
史歩は訳の解らぬ威圧感を体に受け、拳を握りながら俯いた。
「お前は、何と言うのだ。我に教えてくれ」
口調がぞんざいになっていくように史歩には感じられる。
「し、史歩じゃ。おめぇさ、もう遅いけ、けぇらないと」
バッ、と顔を挙げた史歩は硬直した。
明暗の目が細められ、背筋から悪感が這上がってくる。
史歩の胸中を嫌な予感が犇き合う。
「帰る? 我を置いていくとでも?」
声色が低くなった。
冷酷な眼差しを向けられ、史歩は言葉も出せずに立ち竦む。
「そんなこと……させる訳がなかろう? 史歩、と言ったな。我の物になれ」
明暗に手首を掴まれる。
ヒッ、と喉が鳴った。
「そう怖がるでない。我の玩具となり、我と遊ぶのだ。光栄だろう?」
「お、おらは人間だっ!玩具にはなれねぇぞ?」
必死で声を振り絞る史歩を、明暗は鼻で笑った。
「ふん、人間など我の玩具に過ぎぬ。ちっぽけなものだ」
「お、おめぇも、人間じゃろ?」
恐る恐る尋ねた途端、史歩の体が宙に浮かぶ。
明暗の肩に担ぎ挙げられたのだ。

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