《MUMEI》

電車の通り過ぎる音が暫く続く。
ベンチで座りながらそれを目で追い掛ける。


「あんなものに飛び込もうとして……」

自分でも信じられないくらいだ、足払いで安西を方向転換させ、引き止めた。


「先輩、さっきの一緒に死にたいのには続きがありまして……俺は先輩とも死ねなかったら先輩の前で死にたかった。でも、本当は先輩のその、真っ白い手で殺してほしかった。」

まだ、安西は小刻みに震えていた。


「絶対、死なせないからな。有志は馬鹿じゃないだろう?考える力がある。
生きてろ、俺だけじゃない、有志が死んだら弟達が哀しむ。そういうこと、出来るやつじゃないだろ。」

安西、戻ってこい。


「……槙島の車に先輩が乗って行って……先輩と同じクラスの鬼怒川って奴が飛び出したんです。槙島が混乱してて、俺も気が違っていた。先輩が俺に内緒でウチ先輩と会って……槙島の車に乗り込んだ。それで、あの軟禁を煽って、指示したんです。もう生きるのは辛い世界なんです。」


「辛くない世界なんてない。生きてるのは悪いことじゃない。
手首の脈が、心音が、自分を生かしてくれてるんだ。自分で自分を生かしたんだよ。汚くても、辛くても、生きることを否定することはにも出来ないもの。」

なあ、
だから、安西有志という人間はどうか生きていて。


「先輩はそうやって中に入って来て俺を救い上げる……でも、最後にはウチ先輩を選ぶんです。……奥歯欠けましたよ。
ウチ先輩たら手加減しないんだ、その首に付いてるの貰ったんですね?殴られながら何度も視界に入ってました。」

安西、よく見てる。

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