《MUMEI》
一章:七
「我を虫けら共と同じにするでない」
「なっなな、何するけ!? 降ろしてくんろ!」
ジタバタと手足を滅茶苦茶に動かし明暗に抵抗を示してみるも効果はなく、虚しく眼前の背中を小さな手で叩く。
「大人しくしていろ。煩い餓鬼は好まぬ。……よし、行くぞ」
地を走るような低音が恐ろしく、史歩は静止した。
それに満足したのか明暗は微笑んだ。
「い、行くって、何処さ行っ……ギャワッー! 助けてくんろぉーーッ」
史歩が疑問を言い終わる前に、明暗は屈み込んで勢い良く飛んだ。
それはもう空を駆け抜ける勢いで。
史歩の意識は空高い場所で失われるのだった。
「んで、気ぃ付いたら、おら、お月様におっただ。それから今日までの拾年間お月様に……」
史歩の昔語りを信じられぬ思いで茅は聞いていた。
「待った、君は幾つなんだい?」
「え、拾伍だ」
マジマジと史歩を見つめ、茅は頭を掻く。
「私には拾歳にしか見えぬのだが」
「ああ、お月様では年を取る速度が遅くなるみたいでな」
それが普通かのように史歩は淡々と答え、茅が煎れた茶を啜った。
「そうか。もしかすると、拾年程前の神隠しは、その月とかいう輩の仕業なのかい?」
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