《MUMEI》
一章:八
茅も自ら煎れた茶を飲みながら問掛ける。
史歩は頷くと湯飲みを置いた。
「お月様は、拐った子が逃げる度に新しい子を探して拐ってたみたいじゃけ。逃げた子は、地球に帰る前に捕まってな、お仕置きされて死んじまったと、おらはお月様から聞いたけ」
史歩の顔が下がり床を凝視する。
「そうなると、君が此処まで来れたのは奇跡に近い訳か。その傷は月とやらに?」
「まぁな。拾年も逃げんかったのはおらだけみたいで、お月様も油断しちょっただ。でも、絶対追ってくるけ、おいちゃん、助けてけろ!」
顔を上げた史歩に縋るように見られ、茅は困り果てる。
「いや、しかしだね」
「お、おらの話さ、信じて貰えるとは思わねぇ。だけん、おねげぇだ。人助けだぁ思って助けてくんろ」
「……君の村は、何処にある?」
胡座を掻いて座る茅に向け、痛むであろう体を必死で折り曲げて頼む史歩。
茅は息を吐き出して答えるで無しに問いを掛けた。
上目遣いに茅を見て史歩は庵を指差す。
「此処じゃ。おめぇさ、見ねぇ顔だけ、新入りか?」
史歩の返答に苦々しい表情を浮かべ茅は口を開いた。
「いや、此処にあった村は廃れて今はもうない」

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