《MUMEI》

長椅子の端っこにちょこんと座り、持ってきた団扇でわたしたちの方へ風を送りながら、遠くを見るような眼差しで呟いた。


「昔はこの商店街も、たくさんのひとが訪れて賑わっていたんだけど、最近じゃこの通り、さっぱりお客さんもいなくってねぇ……」


トメばあちゃんの話を聞きながら、わたしは商店街を見回した。

夕飯まえの時間だというのにも関わらず、歩いているひとは、いなかった。お店で買い物をしているひとも。

トメばあちゃんはつづける。


「若いひとたちは、こんな田舎にいるのがイヤだって言って、みんな都会に行ってしまって。それでも、ここに残ったみんなは、商店街を盛り上げようと一生懸命頑張ってきたけれど、すっかり歳をとってしまった……」


そう言ったトメばあちゃんの姿は、どこか寂しそうだった。


−−−実際。


トメばあちゃんの息子さんも、跡取りでありながら、和菓子職人になるのを嫌がって単身上京し、一般企業に就職してサラリーマンとなったと聞いたことがある。

彼は、そっちで知り合ったひとと結婚し、今では子供も生まれ、すっかり都会に住み着いてしまっているらしいし、そんな話は、トメばあちゃんの家に限ったことではない。


この商店街を出て行ったみんなは、


ここで生まれ、そして生きてきたことを、忘れてしまったように、新しい毎日に没頭しているのだ………。





急に寂しくなった。





こうやって、どんどんこの商店街が忘れ去られて、消えていってしまうのかとおもうと、やり切れない気持ちでいっぱいだった。

わたしはどうしようもないやる瀬なさに、俯く。

すると、しばらく黙ってまんじゅうを頬張っていた《彼》が、言った。




「もったいねぇな」




はっきりとした声だった。わたしは顔をあげ、《彼》を見る。

《彼》はトメばあちゃんが煎れてくれたお茶に手を伸ばしながら、つづける。


「今って、どこへ行っても便利なショッピングセンターとか、お洒落なファッションビルだとか、似たようなモンばっかどんどん建ててさ。流行りかなんか知らないけど、都会をマネしただけで、あんなモン、キレイでもなんでもないのに」


そこまで言うと、《彼》は音を立てながらお茶を飲む。


「俺は店先で、ゆっくりのんびり、こーいうふうに、まんじゅう食ってるほうが、好きだけどな」


わたしはたまげた。まさか、この《彼》の口からそんな言葉が飛び出すなんて、想像もしていなかったから。

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