《MUMEI》
美大生の審美眼
それを聞いて、《彼》はようやく納得した表情を浮かべた。


「……それでケーサツがどうのって言ってたのか」


わたしは力強く頷いた。


「絶対に許せない。わたしたちの居場所をめちゃくちゃにするなんて……早く捕まえて、警察にぶち込んでやりたいの」


《彼》はしばらくわたしを見つめていたが、急に半眼で睨んできた。


「……てか、勘違いで俺のことケーサツに連れてってどーすんだよ。カンペキ、冤罪だぞ」


わたしは言葉に詰まった。なにも言い返せない。見兼ねて竹内さんが、「いじめないの」と、わたしたちをとり成してから、プッと笑う。


「……まぁ、こんな出で立ちでカラースプレーばっかあさってるから、君が疑う気持ちもわかるけど」


竹内さんのコメントに《彼》は面白くなさそうな顔をした。

竹内さんに向かって、すねたように口を尖らせる。


「なんだよそれー??」


「だってしかたないだろ??誤解されるのイヤだったら、きちんとした格好しなよ」


「ヤダよ、めんどくせー。どうせ似合わねーし」


ポンポンと会話をつづける二人に、わたしは、それじゃ、と言い、自転車にまたがる。

それから《彼》の顔を見た。


「…勘違いしてゴメンなさい」


素直に謝ると、《彼》は黙ったまま頭をボリボリかいた。わたしは竹内さんとトメばあちゃんに会釈して、そのまま自転車を漕ぎ出そうとしたとき、



不意に、《彼》の声がした。





「………一緒に行く」





わたしは動きを止める。

そして振り返った。

《彼》はまっすぐわたしを見据えていた。

もう一度、繰り返す。



「一緒に行く。ペンキの塗り替え、手伝ってやるよ」



わたしは《彼》を睨みつけ、余計なお世話!!と一蹴した。


「慣れてるから、手伝ってもらわなくても平気です」


可愛いげなく言ってのけたが、《彼》は引かなかった。


「3人でやった方が早く終わるじゃん」


「なぁ??」と竹内さんに振る。突然の提案に、竹内さんは戸惑いながらも頷いた。


「そ、そうだよ。これもなんかの縁だし、一緒に行くよ」


わたしは二人を睨みながら、ウソつけ!!と言い放つ。


「どうせ、《グラフィティ》を見たいだけなんでしょ??」


シホと長島君もそうだった。
だから、彼らもそうに違いない。

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