《MUMEI》
一章:十
「君は……月 明暗?」
ロウソクと月明かりの光の中、スッと細まった茅の目が戸口に向かう。
視界に入った者の容姿は、先程史歩の話していた者に酷似しているように茅には見えた。
「ふん、史歩から聞いたか、人間。如何にも我が明暗だ。……史歩を渡して貰おうか」
明暗が一歩踏み出し、史歩が体を起こした。
茅の袖を引き首を左右に振る。
「お月様、おらは帰らねぇだ。あんなとこにはおらんねぇべ」
史歩は茅の後ろへ隠れ、顔だけを明暗に向けた。
明暗の眉間に皺が寄る。
史歩を隠しながら茅が立ち上がり、史歩の手首を片手で掴み、もう片手を懐に忍ばせる。
「明暗、と言ったね。君はどうして史歩に執着するんだい?」
「愉しいからに決まっているだろう? 史歩は我の玩具だ。我を愉しませる義務がある」
史歩の手を取ったまま明暗に少しずつ詰め寄る茅を睨め付けて、明暗は自分からも一歩近寄った。
詰められていく間合いに史歩の顔は情けなくも歪む。
「君はおかしなことを言うね。史歩は人間であって玩具ではない」
「人間如きが我に歯向かうか。愚かだな」
両者の睨み合が続く最中、遂に茅が懐から小刀を抜き明暗に向けた。

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