《MUMEI》
一章:十一
明暗の首筋に刃を宛て、茅は史歩を引っ張りながら明暗に並ぶ。
「悪いが、行かせてもらうよ」
史歩を背に隠し、後ろ向きで外へと出る。
明暗は腹の解らぬ顔で笑っていた。
腕を組み動く気配はない。
怪訝に思う暇もなく、茅は史歩を片腕で担ぐ。
腕と腰で小さな体を支え、赤い月に照らされた薄気味悪い、暗くて感覚の掴めぬ山道を走り出した。
「お、おいちゃ……。危ねぇだよ」
弱々しく史歩が口を開く。
殆ど放心状態に近い彼は、茅の着物を握り締めていた。
「大丈夫だ、慣れている。それより、何故追って来ない?」
「お月様は楽しんどる。鬼ごっこ、好きだけん」
「鬼ごっこ!? はは、何とも悠長な奴だな」
慣れ親しんだ道を駆けながら茅は驚きに声を上げ、軽快に坂を下っていった。
「おいちゃん。行き先に宛はあるだか?」
不安からか茅に問い掛ける声は微かに震えている。
「ああ、麓にある村を目指す。其処にちょっとした知り合いがいてね。まだ時間が掛かるが我慢してくれ」
茅は安心するようにと、史歩を抱える腕に力を籠めた。
こくん、と史歩の首が縦に動き、微笑みをくれる。
茅も笑みを返し足を動かし続けるのだった。

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