《MUMEI》
一章:十二
 漸くなだらかな道に差し掛かった頃には、月も本来の色を取り戻しつつあった。
「……見付けた。逃がさぬぞ、史歩!」
上空より声がしたかと思えば、進行方向に人影が落ちた。
ふわり、と地面に着地した明暗が二人の前に立ちはだかる。
「君は……一体何なんだ?」
茅は後退りながら疑問を口にした。
人知を超えた存在に驚くことすら忘れているようである。
「ふん、貴様に教える義理はないわ。それよりも史歩を渡してもらおうか」
「断る、と言ったらどうなるんだい?」
「貴様を消すまでのことよ」
両者睨み合ったまま間合いが詰められていき、遂には明暗の手が二人に伸びた。
明暗の指は茅の腕を掠め宙を切る。
何も起こる筈のない所作だった。
しかし、茅の着物は切断され、布の下にある皮膚までも傷付いていた。
一筋の血が腕を伝い落ちる。
「どうなって……いるんだ、一体」
信じられない、と呟いて茅は後ろに飛び去り距離を取った。
「おいちゃっ! 大丈夫けろ? やっぱり、お月様には誰も敵わねぇだ! おら、おら……」
「大丈夫だ。少し切っただけのことさ。君のことは必ず守る」
茅の腕の中で涙ぐんでいる史歩に、何処から湧いてくるのか、自信満々に茅は答えた。

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