《MUMEI》

わたしの台詞に、《彼》は素直に頷く。


「そうだな、興味ある」


あっさりと認めた《彼》に憤りを感じたが、わたしがなにか言うまえに《彼》は言った。


「知ってる??《グラフィティ》って、すげーメッセージ性の強いものなんだよ。見るやつが見れば、《ライター》がなにを考えているのか、わかるかもよ??」


そう言って、《彼》は得意げに笑った。


「…………俺たち、美大生だぜ??」


わたしは瞬いた。





強いメッセージ性。

《グラフィティ》に込められた、意味。

《ライター》の思惑。





−−−考えもしなかったからだ。





彼らの審美眼で、それを見破れたら、





…………もしかしたら、


《ライター》に関わるなにかを掴めるかも。





わたしは、自転車から降りて、二人と対峙する。

しばらく見つめ合ったあと、





「…………よろしくお願いします」





わたしは深々と頭を下げた。


顔をあげたとき、

柔らかくほほ笑む、《彼》の顔が、視界にうつった…………。













二人を連れて自転車を転がしながら、家に帰ると、じいちゃんがお店の片付けを始めていた。少ないお金を数えて、小さな金庫にしまっている。

わたしは自転車を停めて、ひょいとお店の中を覗き込んだ。


「じいちゃん、ただいま!」


元気よく声をかけると、じいちゃんは顔をあげた。

そして、

目を見開き、金魚のように口をぱくぱくさせる。


「…………まッ!!」





…………『ま』??



『ま』って、なに??





わたしが眉をひそめると、じいちゃんは店先に立っている彼らを指さしながら、大声で言った。


「孫がオトコを連れて来よったッ!!」


「しかも、二人も!!」とまくし立てるじいちゃんに、わたしはすかさず、ちっがーうッ!!とつっこんだ。


「そーいうのじゃないの!!このひとたちは………」


言いかけてから、チラッと二人の顔を見る。

竹内さんは小綺麗な格好で、感じよくニコニコしていて、《彼》は薄汚い作業服のような見なりで、無愛想に口をへの字に曲げている。

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