《MUMEI》 二人の顔を確認してから、わたしはじいちゃんに向き直った。 「真面目な美大生と、そのへんのガテン系」 簡単に、それぞれを紹介した。 すかさず《彼》が、「オイッ!」とつっこむ。 「なんだよ、そのへんのガテン系っつーのは!!」 「ちゃんと紹介しろ!!」とわめく。わたしは《彼》を振り返り、半眼で睨んだ。 「だって、信じらんないんだもん」 「なにがだッ!!」 言い争いが始まるまえに、竹内さんが「まあまあ…」とわたしたちをとりなす。 黙って睨み合うわたしたちをほっといて、竹内さんはじいちゃんに向き直り、言った。 「はじめまして。僕たち、そこの美大に通ってる者です。竹内といいます」 それから竹内さんは《彼》を見て、「それでこっちが……」と言いかけたのを、《彼》がつづける。 「倉澤です」 そこで初めて、《彼》の名前を聞いたのだが。 …………あれ?? どっかで聞いたことがある。 『クラサワ』 でも、 一体、いつ………?? わたしが首を傾げているのをよそに、じいちゃんは、彼らに軽く会釈を返しながらも、その表情は固かった。 「………それで、一体、なんの用で??」 尋ねると、《彼》があっけらかんと答えた。 「《グラフィティ》を見に来ました」 じいちゃんは眉をひそめた。 「見てどうするつもりだ??」 気持ちを押し殺すような抑揚だった。明らかに怒っている。興味本位でやって来たのだと思ったのだろう。 わたしが慌てて言葉を付け足す。 「《グラフィティ》には、《ライター》のメッセージが込められているんだって!!二人が教えてくれたんだ!!」 わたしは彼らが美大生だから、そのメッセージを見抜くことが出来るかもしれないのだ、とじいちゃんに説明した。 じいちゃんは難しい顔をしていたが、わたしの必死な様子を見てため息をつき、「勝手にしろ」と呟いて、金庫を持ち、自宅の方へ消えて行った。 じいちゃんの後ろ姿を見ながら、《彼》−−倉澤はため息をつく。 「………根っからの職人気質だな」 ぼやいたその台詞にわたしが首を傾げると、倉澤は肩を竦めた。 「頑固で手に負えないってこと」 倉澤の言葉に、竹内さんは笑って頷き、 「だから今日まで、お店を守って来てるんだよ」 さりげなくフォローした。 . 前へ |次へ |
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