《MUMEI》 . −−−それから。 わたしたちは店の外に出て、長い引っ掛ける棒を使い、シャッターを下ろした。 そこに、現れたのは。 ブラッドオレンジの記号化されたアルファベット。 それを縁取る、レモンイエローから赤へのグラデーション。 炎を吐いている、オレンジ色のドラゴンに似せたキャラクター。 …………いつ見ても、ヘンテコな《グラフィティ》だな。 オレンジのドラゴンもどきを見つめ、わたしはひとりごちた。 倉澤はシャッターに近寄りながら、「これかぁ……」と呟き、顔を思い切り近づけた。 その場にしゃがみ込み、シャッターに触れる。 しばらく表面を撫でながら、ぽつんと呟いた。 「この色…………」 もうなにか分かったのかと期待して、わたしはひょいと覗き込む。 倉澤は振り向き、言った。 「センスねぇな」 …………それだけかっ!! わたしが倉澤を睨んでいると、後ろに控えていた竹内さんが眼鏡の位置を直しながら、「確かに」と頷く。 「配色も単純だし。構図も雑過ぎる。見よう見真似で描いたって感じがするね………」 わたしは竹内さんを振り返った。 「つまり、描き慣れてないってこと??」 尋ねると、倉澤が答えた。 「街で見かける《グラフィティ》のレベルより、スプレーの使い方が上手いね。描き慣れてはいるんじゃない??」 竹内さんも頷いた。 「慣れてるみたいだけど、『アート』としてはお粗末だね」 …………いやいや。 『アート』じゃなくて、落書きですから!! わたしは二人の顔を見比べる。 「……で、《ライター》のメッセージはわかった??」 わたしの質問に、倉澤と竹内さんが同時にわたしを見て、それからお互い顔を見合わせる。 それから、倉澤がもう一度わたしの顔を見て、はっきり言った。 「わかんねぇ」 …………。 ……………はぁっ?? わたしは眉をつりあげた。 「わかんないって、どういうこと!?」 いきり立つわたしに、倉澤は立ち上がりながら面倒臭そうに答えた。 「こーいうのは、独自の感性があるからな。見たひとそれぞれで、感じ方が違う」 …………なんだそれッ!? 「それじゃ、話が違うじゃない!!」 自分たちならメッセージを読み取れると言ったから連れてきたのだ。それを投げ出されては困る。 . 前へ |次へ |
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