《MUMEI》
一章:十三
史歩はそれでも不安な顔で敵を視界に捉える。
「何を話しておる、虫けらめ。そんな余裕があるのかっ!?」
カッ、と眼を見開き、浅く広げた両腕で風を切るようにして明暗が迫ってきた。
茅に向けて続けさまに腕が振り落とされる。
「史歩! 我と共に帰るのであらば、この虫けらは助けてやろうぞ」
紙一重で交わしていく茅に腕を舞わせながら、明暗は史歩に怒鳴り付けた。
史歩は何かに耐えるかの如く唇を噛み締める。
そして、顔を上げ茅を見詰めた。
「おいちゃん、おら!」
「待て、明暗!」
史歩が何事か言いかけたその時だった。
またもや上空より声が響き、突如として明暗と茅の間に一人の人物が落ちてきた。
その人物は軽やかに地面に足を着け、茅を背に庇うようにして立ちはだかった。
年の瀬は拾伍に見える少年で、短めの髪は銀色に輝いて見える。
着物を身に纏い、腰の帯には刀が差してある。
彼はそれを引き抜き明暗に向けた。
「これ以上の所業、許す訳にはいかん。少しは大人になれ、明暗」
「太光に何が解ると言うのじゃ! 我の邪魔をするでない。太光であろうとも容赦はせんぞ」
「良いだろう、ならば相手になろうぞ。……人間共、今の内に行け」

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