《MUMEI》
二章:一
夜が明ける。
人知れず地上を静かに照らしていた月も姿を消し、絶対的な存在感を示す太陽が顔を覗かせた。
山の麓にある小さな村にも朝が訪れ、其処で生活を営む立木 源五郎(タツキ ゲンゴロウ)も目を覚ます。
源五郎は村で瓦屋をやっており朝早くから活動を始める。
今日も日が上がると同時に動き始めていた。
まず起きて初めにやることは、玄関の戸を開け朝一番の空気を家屋へ取り入れることだ。
ボサボサに暴れる髪を片手で掻き交ぜながら戸口に向かう。
いつものように走りの悪い戸を開けようとした、のだが重くて開かない。
何度か左右に微動させ勢い良く動かすと、カラカラと音を立てて戸が開いた。
太陽が上がったばかりの空は、まだオレンジ混じりの色合いで綺麗だ。
そして、山に掛かる光が景色を美しく演出してくれる。
暫時、見惚れるのも源五郎の日課である。
んっ、と声を一つ出しながら両腕を上に伸ばす。
背筋も上に上にと追いやって、弛んだ体を起こす。
全てが日課であり、日課の積み重ねの上に日常がある。
だがしかし、日常とはいつ壊されるか解らないのが常と言うもの。
源五郎の日常とて同じこと。
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