《MUMEI》
二章:二
今日もまた、珍しい訪問者の厄介事に首を突っ込むのであった。


 戸を閉め中に戻ろうとした時だった。
「ゴロさん!」
何処からか自身の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
しかも、其は聞き知った声である。
源五郎は首を左右に動かし辺りを見渡す。
が、誰もいなかった。
「茅、居るのか?」
首を傾げて控えめな音量で問いを放つ。
「ゴロさん! 此処、此処だよ」
居場所を示す声は前方から聴こえてくるのだが、目の前には家が並ぶだけだ。
首を傾げて目を凝らしている間に、家屋と家屋の隙間から人影が現れた。
その人物は源五郎の古い知人であった。
「茅、おめぇ。こんな時間にどうし……てぇか、人拐ったんか!?」
近付いてくる久しぶりに会う知人に微笑みを向け来訪理由を問おうとするも、彼が抱えているものを目に、つい声を荒げてしまい咄嗟に口を手で覆う。
源五郎の前で立ち止まり、茅は苦笑いを口許に浮かべた。
そして、首を左右に振り否定してみせると、抱えられたまま眠っている児童に視線を遣り言葉を濁す。
「ちょっと訳有りでね。入っても良いか?」
「あ? ああ、そりゃ構わねぇが」
「済まないが少し寝かせて貰いたい」

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