《MUMEI》 「こんな処で会うとは奇遇だな。今は此処に努めているのか?」 揶揄する様な嘲笑が向けられ サキは分からないように舌を打つと、何を返す事もせず踵を返し 相手へと背を向けた 「……相変わらずだな。まぁいい。所で、少しお前に話がある」 付き合え、と腕を取られ 当然拒む様にその手を振り払う 「……今更、アンタと話す事なんて俺にはありませんが?」 一体、何の話をしようと言うのか 訝し気な顔をしてみせるサキへ ドラークは相も変わらず嫌な笑みを浮かべながら 「……言う事は、聞いておけ。お前の大切な(アレ)を壊されたくなければ」 耳に、何かを脅す事の刃が当たる 僅かに眼見開いたサキがドラークへと向いて直った 「……付いてきて、くれるな?」 今はまだ穏やかなその強制に その言葉は、サキに拒むことをさせなかった 僅かに舌を打ち、従う事しか出来ない 脚に使ってきた短車はその場へと放置し、サキはドラークに伴われ車へ 乗せられ、連れてこられたのは 軍の総本部 久方振りに訪れたかつての古巣 未だ知った顔も多く、サキの姿は注目を集めてしまっていた 「此処だ」 暫く歩かされ到着したのは、地下にあるとある部屋 随分と重厚な扉 ソレが重々しい音と共に開かれる 薄暗い室内。だが其処に見えた様子に、サキは言の葉を失った 「これは――」 僅かに上擦ってしまう声に、ドラークは嘲笑を浮かべ 照明が突然に、全てを映し始める 「素晴らしいだろう。私が長年苦労して造り上げた最高の人形だ」 部屋の中央に鎮座する巨大な人形 その無機質なソレを見るドラークの表情は至福に満ちていた 「……テメェ、こんなもん、一体何の為に――」 「とあるお方への献上品だ。見ての通り外装は完璧だ。後は」 言葉も途中に ドラークは呆然と立ち尽くすばかりのサキの腕を掴み上げ、壁へと拘束しながら 「あとは、魂を入れるだけなんだよ。サキ・ヴァレンティ大佐」 過去の役職を今更に宛がわれ嫌悪ばかりを感じるサキへ 更に相手は追い討つ様な言の葉を続ける 「教えてもらおうか。どうやって人形に魂を、人格を植え付けたのかを」 サキの眼が見開いた 決して触れられたくなどない過去 ソレを次々に他人に抉られていって 否定したくても否定されず 事実・現実・犯した罪だと改めて理解させられる 「……あいつは、人形なんかじゃねぇ。あいつは、人間だ」 「違うな。あれは人形だ。お前が造り出した人形。ヒトの形を模し人と似た意識を持つ唯の紛いものだ」 「そう思うのはテメェの勝手だ。けど、俺は違う」 例え、造られたモノだったとしても 今を生き、共に在る その事実だけはサキにとって救いであり十分すぎる事実 ソレを誰に否定されたくもなかった 「所長!」 無言での睨み合いが暫く続いた後 勢い良く開かれた戸、同時に鳴り響いた銃声 その銃弾にサキとドラークに僅かな間合いが出来た 「ラ、ライラ……?お前、なんで此処に……?」 近く駆けてきたライラに驚きを隠せずにいるサキ そのサキを、ライラは庇う様に立つ 「随分と帰りが遅いなと思いまして。迷子にでもなったのではと探していたら所長が此処に入っていくのを見たという人が居ましたので」 相も変わらず無表情で淡々と喋る かと思えばほんの一瞬、その表情が弱々しいソレへと変わった 「此処は、嫌いです。この人形も、何もかも全て」 「ライラ……」 「これ以上、私やこの人から何も奪わないで!!」 目の前の男が余程憎いのか 銃口をドラークへと向けながらも、その身体は小刻みに震えている 「そう言えばあの時、この男の脚元で震えながら泣いていた子供が居たか。あれは、お前だったか」 明らかに嘲笑を向けられ、銃を握る手に更に力が入って 撃鉄を起こす音が微か。静寂の中に響く 「……此処は、嫌いです。出来るのなら一秒たりとこんな処には居たくない、でも!」 「私を、撃つか?」 挑発めいた言葉 直後に響いた銃声 「ライラ!」 引き金を引いた瞬間サキがその手首を掴み上げ、その所為で狙いが外れた 弾はドラークの真横、コンクリートの壁に鈍く減り込む 「何故、なんですか?義兄さん……」 前へ |次へ |
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