《MUMEI》
二章:三
「おう。俺は仕事があるから出るがな。好きにしてくれや」
「助かるよ。仕事が終わったら、相談したいことがある。起こしてくれ」
何処か真剣な顔の茅に頼まれ、断れる筈もなく源五郎は頷いた。
茅は其を見て安心したのか些か表情を弛め、邪魔するなと呟きながら戸に手を掛ける。
走りの悪さに悪戦苦闘しつつもどうにか片手で戸を開け放ち、茅は屋内へと消えた。
残された源五郎は状況把握出来ずに立ち尽くしていたが、仕事の時間が迫っていることを思い出し、着替える為に茅に続き屋内へと舞い戻るのだった。
源五郎が仕事から戻る刻には、辺りもすっかり明るくなりきり、村の住民達も活動を始めていた。
外に出ている者と擦れ違い様に挨拶を交わし、時には近所付き合い程度の会話を繰り広げながら帰路に着いた。
壊滅的に走りの悪い戸を、忌々しげに睨む。
両手は戸に掛かっている。
力も込められている。
それなのに、戸はびくともしないのだ。
睨んでも状況は変わらないことは源五郎とて十分理解している。
これは気分の問題だ。
「くそ、何だよ。お前、今日は何時にも増して機嫌悪ぃな、おい。開けってんだ!」
遂には戸に向かい悪態を吐き始めた。
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