《MUMEI》
序章:虐待
 言葉には力が宿っているのだと思うようになったのはいつだっただろう。
宇津井 七(ウツイ ナナ)と言う自分の名前にでさえ力が籠められているのだから可笑しなものだ。
5歳にもならない己に宿る力が、心底疎ましい。
大切な者も守れぬ力なら、いっそ要らないとさえ思うのに、周りは七の力を欲するのだ。


 閉鎖的な部屋は、息が詰まって仕方ない。
自分の部屋だという事実が更に重くのし掛かる。
振り払うように首を左右させ、学習机の椅子に座り鉛筆を持った。
 双子というものは実に不思議な存在だ。
兄弟であり、尚且つ片割れでもある。
それが、七の中での宇津井 知有(ウツイ チユウ)の存在位置だ。
それ以上でもそれ以下であってもならない。
位置を守るために必要だった、と言えば知有への仕打ちも許されるのだろうか。
七には解らなかった。
 手にした鉛筆をただひたすらに動かす。
知有への想いを言葉に託す。
いつか許してもらえるのならば、今この瞬間は恨まれても構わない。
覚悟は出来ていた。
このままでいても幸せは訪れない。
きっと、知有にとって七はいない方が良いのだから。
彼から全てを奪った存在など、消えて然るべきなのだ。

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