《MUMEI》
序章:自己防衛
体に当たる本の感触など霞む程に、七の苦しみが知有を苦しめた。
部屋を出ていく七に伝えたくても、言葉は口を出ていかない。
七の背中が視界から消えた途端、世界は色を無くした。
七がいないのなら、知有の世界に意味はないのだ。
 知有は虚空を眺めて想う。
七の痛みが怖いのだ、と。
おそらくは、七も知有の痛みが怖いのだろう。
 お互いに解っていた。
一緒にいれば幸せは訪れないことを。
だから、いつかはこうなることも知有は解っていたのだ。


 日常が壊れた日。
七は笑っていた。
知有は幸せになって、と言いた気に心からの笑みを浮かべ、堕ちていく。
その先にあるものが何なのか、解っていただろうに。
彼は最期まで幸せそうに笑っていたのだ。


自己防衛/END

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