《MUMEI》
家の場所
     =10月下旬=


この日、俺はテスト期間中ということで早くに帰宅していた。


只今、5:25



そろそろ、遊びに行っている中学3年の弟"直哉"と妹の6歳の妹"美雪"が帰ってくるはずだ。


面倒見のいい直哉は、よく美雪を連れて公園に行く。その帰りが、この時季だと大体5:30なのだ。





けれど、それから10分経っても二人は帰ってこない…。

どうしたんだろ?とか思いながら待っていたが、帰ってくる気配はまったくない。




更に時間が経ち、さすがに遅すぎないか?と思い時計を見た時には、既に5:50を指していた。

いつも直哉は、あまり遅くなると美雪が危ない。と言って帰宅時間には正確なのに…





「母さん、ちょっと直哉たち捜
 してくる」





心配になった俺が部屋を出ようとしたその時





「ただいま〜」





という二人の声が聞こえた。


俺は何もなかったことに安堵し、二人のいる玄関に向かった。




「遅かったじゃねぇかよ。心配
 したんだぞ」

「あぁ、わりぃ。兄貴の友達に
 家の場所聞かれてさ」

「俺の友達?」

「うん。すっご〜く綺麗なお姉
 ちゃんだったよ!美雪に飴も
 くれたんだ!!」

「兄貴、彼女できたのか?」

「ちげぇよ。……誰だろ?」

「美雪も言ってたけど、メチャ
 クチャ綺麗な人だったぜ」

「綺麗な人ね〜……」






こんなことを言ったら失礼だけど、クラスメイトにそんな綺麗な女子いたっけ?

しかも、俺の家を知りたがるような奴だろ?





う〜ん


……あっ!!





「…もしかして、コイツか?」





俺は、部屋にあったクラス写真に写る柊を指差した。





「そう!このお姉ちゃんだよ!」

「本当か?」

「本当だよ!美雪、お兄ちゃん
 に嘘付かないもんっ」

「そうか…。家を教えてほしい
 理由とかは言ってたか?」

「なんか、ちょっと用事がある
 って言ってたぜ」

「用事?」

「まぁ、家を教えたら直ぐ帰っ
 たから、急ぎの用事ではない
 みたいだけどな」

「ふ〜ん…」





柊が、何の理由があって家の場所を聞いてきたのか、どれだけ考えたって、心当たりなんかなくて、この時の俺には分からなかった。


…いや、分かるはずがなかった







その理由が分かるのは、
俺が死んだあの日なのだから…

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