《MUMEI》 . わたしはお母さんを見つめ返しながら、ゆるりと瞬く。 「話、途中だったんでしょ?別に、気にしないよ、わたし……」 そこまで呟いて、わたしはお母さんから目を逸らす。 貧相にやせ細った、自分の足の指を見つめて、つづけた。 「コソコソされる方が、逆に面倒」 冷たく言い放つ。 お母さんはなにも返事しなかった。 わたしは顔をあげないまま、ヒューを呼び、彼をともなって、2階の自分の部屋へ向かった。 …………毎日が、こんなかんじ。 みんな、わたしの顔色を伺って、 アレコレ難しい話を繰り広げて、 作りものの笑顔を、顔に貼り付ける。 いつかやって来る悲しみに、気づかないフリをするように。 わたしのために、 そうしてくれているのだろうが、 …………ときどき、 たまらなく、欝陶しくなる−−−−−。 自分の部屋に入るなり、わたしはベッドに倒れ込んだ。酷い疲労感が身体中に纏わり付いていた。 最近、ちょっと動いただけでも、ものすごく疲れてしまう。 きっと、近いのだろう。 わたしの、《最期の日》が。 ヒューが寂しそうに鼻を鳴らした。わたしは顔を少しあげる。 ヒューはベッド脇から、わたしの顔をじっと見つめていた。漆黒の大きな瞳は、賢しげな輝きに満ちていた。 わたしはゆっくり身体を起こして、ベッドに腰掛けた。ヒューはわたしの動きを目で追いながら、床にお尻をつけた。 わたしは手を伸ばし、ヒューの首に腕を回す。ゆっくりと、けれどしっかり抱きしめる。柔らかな温もりが、わたしの腕へと伝わる。 ヒューはパタパタと尻尾を振って、静かにわたしを受け入れていた。 …………いつか、消えてしまう。 そんなことは、もう、わかってる。 でも、 怖いんだ−−−。 ヒューの温もりを確かめながら、わたしは少しだけ、泣いた。 . 前へ |次へ |
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