《MUMEI》

眼鏡は七生に放られた。
多分、玄関先の方へ飛んだようだ。


「俺……、一人占め出来ないと二郎のこと大事に出来ない。」

額がくっついて、七生の指は俺の腰に伸びた。


「七生、だめ……それはだめ。」


「俺の中で、不安や心配が膨らんで……確かめないと、二郎を疑ったままになってしまう。」

ベルトが緩んでゆく、七生の手首を掴んでもびくともしない。


「俺に、酷いことする?」

安西や、他の人みたいにする……?


「……答えなきゃ駄目?」

キスがこんなに痛いなんて、唇は熱を帯び、七生に余裕が無いことを再確認する。
卵の殻みたいに俺は服を剥かれ、七生の熱っぽい皮膚と床の冷たさに敏感になっていた。


「 っぷ………… や……だあ……」

呼吸は上手く出来ない。
させてくれない、の方が正しい。
七生の舌が上下に移動する時に出来る隙間で呼吸が出来る。


「嫌なら刺し殺すくらいしてみろよ。だから、ボロボロにされるんだ。可哀相な二郎の手首……」

手首の傷に舌先が触れる。


「可哀相な肩……」

肩の傷に舌先が触れる。


「可哀相な俺……」


「結局は自分なんだ!」

皆、自分ばっかりだ!俺なんてどうでもいいんだ。


「二郎が悪いんだ!俺はこんなに好きなのに!」

キスを避けようとしたが首ごと口へと運ばれ、力が入らない。


「甘い言葉で囁けばオちるくらい安いヤツだと思ってんだろ?」


「ん、だと!
そっちが勝手にヒョイヒョイついてったんだろうが!安西や槙島を誘惑したんだろ!」

七生の逆鱗に触れた。

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