《MUMEI》 呑気な箱入り娘むさ苦しい倉澤の顔を見上げ、ニッコリと冷たく笑って見せる。 「あれはジョーダンていうレベルのものじゃないね。犯罪だよね」 「どこが??」 「詐欺罪に、名誉毀損に、迷惑防止条例違反に、猥褻物陳列罪に…………」 知ってる限りの罪名を列挙すると、倉澤は慌てた。 「明らか、猥褻物は違うだろッ!!?」 わたしは半眼で倉澤を見つめた。 「その格好が、すでにワイセツ……つーか、迷惑防止条例イハン」 言い放ったわたしに、倉澤は「なんでだッ!!」とつっこんだ。 言い合うわたしたちに呆れた竹内さんが、「さっさと終わらせようよ〜!」と注意して、 さらに、 「二人の口喧嘩が、もう迷惑防止条例イハンだよ」 と、一番オイシイところを持っていった。 3人でぶつくさ言いながらペンキを塗っていると、 背後から女のひとの声がした。 「……棗??」 不思議そうにわたしを呼んだので、振り返ってみると、 不思議そうな顔をしたお母さんがそこに立っていた。 「なにしてるの??」 尋ねてきたので、わたしはハケを掲げて見せる。 「シャッター、塗り替えてるの。落書きされたじゃん」 簡単な調子で答えてから、わたしはお母さんの姿を見つめる。 淡いピンクのツーピース。ベージュのパンプスに、同じ色のハンドバッグ。 お母さんの一張羅だ。 どこからどうみても、『お出かけ』してきた、というスタイルに、わたしは眉をひそめた。 「………どこ行ってたの??」 尋ねてみると、お母さんはにこやかに答えた。 「お茶屋さんの奥さんと映画♪」 「楽しかったわよ〜」と、やたら上機嫌だ。 しかし。 わたしは、動きが止まる。 …………映画?? っていったら、 この辺じゃ…………。 . 前へ |次へ |
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