《MUMEI》
序章:ニュース
 記憶に残っている。
「粟冠事件の容疑者が起訴されました」
意味のない羅列が、流れていく。
新しい家を取り囲む報道陣。
映し出される見慣れた町並み。
勝手なことをほざく見知らぬ知り合い共。
全てがうんざりだった。
 あの男が起訴されてから、そろそろ一ヶ月になる。
誕生日が近い。
もう5歳になるのだ。
 ああ、馬鹿だ。
粟冠 倶利(サツカ クリ)はそう思わずにはいられなかった。
大人は、警察は、なんて馬鹿で愚かなのだろうかと。
何一つ解っていない。
あの男に起訴する価値などないというのに。
 ふと耳を過切った聞き覚えのある名にテレビを見返す。
流れてくる情報は、いつか会ったあの生意気な幼児に関するものだった。
「萩市在住の宇津井さん家族が一家心中を謀った模様。長男の知有君を残し死亡しました。知有君は現在警察に預けられており心神喪失状態とのことです。双子の弟の七君は天才幼児として地元では有名で……」
無機質なアナウンサーの声、テレビに映えるテロップ。
体が震える。
死んだのだ。
宇津井 七が死んだという事実が重くのしかかる。
 逸る動悸を抑えテレビの電源を落とした。
頬を濡らす涙を服の袖で拭う。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫